間一髪~人生最後の日~
子供の頃から、私は狭い、閉じられた空間が怖くて、そのような場所を徹底的に避けてきていた。後で私は、これは閉所恐怖症として知られる状態であると知った。しかし私はそれを克服することができずに、これまできたのだ。
今私は、いやいやながら閉じられた狭い空間に入らなければならなくなった。私は白布で包まれて、長い棺の中にいる。私はまわりの人たちの声を聞くことができるし、目は閉じられているけれど彼らを見ることもできる。
「彼はあまりにも早く死んだよ。」と彼らは話し、そしてこうも付け加えた。「まあ、それだけのことはしたがね。」
私が多くの仕事をやりかけのままで遺したことも、一つの事実だった。私は息子のために立派な会社を設立することも、車とテレビの支払いを終えることもしなかった。もう冬が来るというのに、雨漏りする屋根を修理していなかったし、燃料もまだ買っていなかった。大きな会社を設立して友人達を雇用すると言う夢は、今はもう散ってしまっていた。
突然、私は大きな音に神経を逆なでされた。まるで、マイクで私の全ての脳細胞に反響させているような音だった。
「全て終わりました!」
私は、終わっていなければどんなに良かったかと思った。どうして事故が起こったのか、私にはわからなかった。私は腕のいいドライバーのはずだった。
事故のことを思い出そうとしている時、私は友人達が私の上に板を置いて棺を閉じようとしていることに気がついた。どれほど叫びたくても、私には動くことも、声を出すこともできない。私は完全な暗闇の中で、棺の隙間から漏れてくる光に目を向けた。
恐怖の中で私はつぶやいた。「神よ、私は今何をしようとしているのですか。」
恐ろしさに捕えられて、何も考えることができなくなった。まもなく人々は棺を持ち上げ、私は彼らの肩の上に載せられた。外から聞こえる音で、雨が降っていると分かった。雨のしずくの音が、棺のきしむ音に混ざっていた。私達は葬儀の礼拝の為にモスクに向かっているに違いなかった。
私は、モスクが近くにあったのに、これまでそこを訪問しなかったことに気がついた。本当は50歳になったら礼拝を始める予定だったのだ。そしてみんなが文句を言っていた、悪い習慣もやめるつもりだった。事故さえ起こっていなければ、私は良い人になるはずだったのだ。
「全て終わりましたよ!」
この声が繰り返し聞こえた。
しばらくして、私の葬儀の礼拝は終了した。モスクのイマームが、私がどんな性格だったか人々に尋ねていた。そこにいた、8人か10人くらいの人は、何も意見を述べなかった。私は自分が彼らに若干の危害を加え、悪事を働いたことを認める。しかしもし事故が起こらなかったら、私は償いをして、彼らに対して与えたことを補償するはずだったのだ。
モスクでの礼拝が終わった後、私は再び肩の上に載せられた。棺の傾き具合から、私は墓場へ上る道を進んでいることを理解した。棺の隙間から雨が流れ込んできて、棺の中を濡らしていた。私は外から聞こえてくる会話を聞き取ろうとしていた。友人達の一部は市場の停滞について話し、また一部は前の晩にテレビで見た洋画の話をしていた。そして棺を運ぶ人の声も聞こえた。
「こいつはなんて悪い日を選んで死んだんだ。俺たちは完全にびしょぬれだ。」
私は自分が聞いたものを信じることができなかった。きっと自分は誤解したんだと思い込んだ。彼らは、私が自分の富と健康を犠牲にした相手ではなかったか?
まもなく私の旅行は終わった。私の棺は地に置かれた。ふたが再び取り外された。私の無力で命のない肉体を担いできた腕は、それを水が溜まった穴の中に入れた。地面の中で、私はあたりを見渡した。
「ああ、神よ。これは墓ではないか!」
私は、その時まで、自分が墓に葬られるのだとどうして気がつかなかったのかわからなかった。誰も私の声なき叫びを聞く者もなかった。親友達は私の体を厚い板で覆おうと、互いに競い合っているようですらあった。
私は再び、完全な暗闇の中にあった。私は全身の細胞で祈り始めた。
「ああ、慈悲深い神よ。あなたの本当のしもべとなるチャンスはもうないのですか。」
同じ声が繰り返された。
「全て終わりました。何もかも終わりましたよ。」
私は、板の上で雷のように響く地面の音に揺すぶられた。最後の努力で、私は目を開いた。
私は居心地の良いベッドに寝ていた。全てが悪い夢だったのだ。医者である一人の隣人が、私のベッドの脇に立っていた。
「全て終わりましたよ。あなたはもう大丈夫。」
私はベッドからゆっくり体を起した。私は20キロくらい体重が減ったように感じるほど、汗びっしょりだった。外ではひどく雨が降っていた。そして家全体が雷で揺さぶられているようだった。
自分の身に起こったことへの当惑から落ち着こうとしつつ、私はつぶやいた。
「ああ、神よ。あなたに感謝します。あなたの真のしもべとなるチャンスをあなたにもう一度いただいていなかったら、私はどうなっていたことだろう。」