ハチのDNAプログラムと自己犠牲
「ネイチャー」誌に載せられた2件の記事によるなら、働きバチの仕事の分配はそれまで考えられてきたような周囲の環境という要因によるものではなく、遺伝子プログラムが基本的な役割を担っていることが明らかにされている。これまでは、働きバチの間の差異は、まだ幼虫のうちの育てられ方や成虫になってから最初期の経験において得られる情報に結び付けられるものであると主張されてきていた。
オハイオ大学のG・ロビンソンとR・ペイジは働きバチが蜜を集めるために向かう道の距離と蜜の集め方、さらにはスズメバチを巣に入れさせないようにしたり、死んだハチの体を巣から外に出したりといった役割を学習することは、父であるハチから遺伝として伝えられているものであることを示している。
生命を持つあらゆる種は、それぞれに特有の遺伝子プログラムを持って創造され、「運命のペン」と呼ばれるこのプログラムの何百万もの顕現は「自然」と私たちが呼ぶ生命の舞台で毎日見られる。同時にこの素晴らしいDNAプログラムに周囲の環境がどの程度影響を与えているかという点についての考え方には、科学者たちの信仰による影響も重要な役割を果たしている。一部の人々は完全に、不可抗力的な遺伝子プログラムを受け入れ、一部の人々は完全に、不可抗力的な周辺環境の影響を受けているといった行き過ぎた見解を主張している。大部分は、遺伝子プログラムと環境が生命体に対し共に、しかし異なる配分で影響を与えていること、双方の要因とも、無限の力を備えられたお方の包括的な英知によるものであることを認めている。
この観点から、カリフォルニア大学のピーター・フロムホフとジェーン・ベイカーはその研究で、働きバチの互いを守り保護するかのような行動において強い遺伝子の影響が存在することを証明している。彼らはこの研究で、遺伝的なサインの技術を利用し、ハチにおける特別な「世話をし保護する」という行動が一定の色に結びつけられたものであることを発見している。得られた結果によると、行われている仕事のプログラムだけではなく、働きバチそれぞれの外観もまた遺伝的なものであることが証明されている。
ハチ、アリ、シロアリといった社会性を持つ昆虫の完全な集団の仕組み、そしてこの仕組みに含まれる複雑な行動は、一世紀以上にわたり進化論者が説明をつけることができず行き詰った根本的な問題の一つである。ダーウィン自身、子を生むことのない働きバチの様々な下部集団の間の差異を「自然選択もしくは浄化」という思想にたてつく最大の現実のうちの一つと見なし、その理論の弱点を晒している。なぜなら彼の頭にある理論では、このような違いは認められないものであるからだ。しかしその違いは現実のものであったのだ。
働きバチはすべて、子を産むことのないメスのハチである。つまり、数匹のオスのハチと交配した女王バチの娘たちである。だから巣にいる働きバチは皆、数匹の異なる父を持つ異父姉妹のように互いに血のつながりを持つ。しかし、同じオスのハチを持つ女王バチの息子たちは、同じ父を持つことから、遺伝子的に完全に兄弟であり、より近い。こういった近さの違いにより、働きバチが自分よりも兄弟を優先させること、つまり犠牲精神を示すことが強く推測されているのである。
子を産む能力を失っている一方で、働きバチの一部は巣の継続と安定のために食物を探し、他の一部は巣を敵たちから守っている。巣の働きバチの間に存在する遺伝子的な複数の種類は、女王ハチが複数のオスのハチと交配することから生じるものであると推測されており、巣における役割分担の違いはオスから伝えられる遺伝子によって確定され、まだ受精に至る前にそれらが決定づけられていることが理解される。
働きバチは与えられたプログラムに応じ、巣にいる産まれたばかりの働きバチの面倒を見る。しかしこの働きバチたちがどのようにして、継続的に自らを忘れ新しい世代の面倒を見ているのか、この自己犠牲の精神が何であるのかは、生物学的法則では説明され得ない。
さらに、「働きバチの遺伝子プログラムはどのようにして自らを、子供を生まず他者のために働くよう義務付けるのか、自らが生殖し子孫を残すことのできない状態とするのか」という問いにも答えを見出せずにいる。
興味深いもう一つの項目は、異なるオスと交尾する女王バチが、巣において様々な役割を果たす働きバチの数をどのように調整しているのかという点である。つまり女王バチは、巣の為に必要な、様々な数、異なる性質を持つ働きバチ(蜜を集めるハチ、敵と戦うハチ、巣をそうじするハチなど)を生む為に異なるオスと交尾を行う際、どのような選択を行っているのだろうか。
働きバチがただ自分に与えられたプログラムに従って仕事を行なう上で、他にどのような要因が役割を果たしているのだろうか。こういった全ての問いの答えは、限りない力の持ち主であられるお方の知と力に秘められているが、これを認めないためにいくつかの不毛な理論を持つ人々は、この素晴らしいプログラムに「本能」といった何をさすのかはっきりしない名前をつけ、自分たちを守ろうとしている。
ロビンソンとペイジは、ハチたちがプログラム化された形で一定の状態や条件に反応していることを信じ、従って一つの「プログラムを組んだ存在」を認めている。彼らをこのような結果へと導く様々な要因がある。例えば、死体を廃棄する集団に属する一匹の働きバチは、死んだハチを見つけるとそれを巣から遠ざける。しかし、巣を守る役割を負った兵である働きバチは、死んでいるハチを見るとそれには触れずに通り過ぎるのだ。
幼若ホルモン(Juvenile hormon)と名づけられ、昆虫に広く見られるホルモンが、働きバチの異なる下部集団がどのように行動するかを決定づける役割を果たしていることが知られている。さらに、ハチたちの行動に影響を及ぼし、遺伝的に監査する多くのホルモンが存在する。一部の研究者たちは、ハチたちに見られる他者のための自己犠牲について、子供を産めない状態に関係があるもの、もしくは女王が分泌するホルモンを媒介として、要因と結果というつながりの中で子供の産めない状態や自己犠牲の精神を生じさせる神の勅令に結びついたものと見なしている。
事実として、どのようなメカニズムによるものであろうとも、あらゆる出来事において私たちの前にはそのメカニズムの計画者、そしてそのお方の知が現れている。火星や金星に旅をし、「星の戦争」といった空想を持って生きる人間は、目を眩ませる様な技術が、一個の「蜂蜜工場」を造るだけの力すら持っていないということを忘れてはいけないのである。