イスラームにおける家族観

 

 

人間は一人で生きることはできません。誰しも両親という存在を持ち、生まれながらにして、家族という小さな社会の中に存在します。私たちは家族という社会の中でまず育ち、そこで受ける教育、振る舞い、道徳観を基盤として、親戚、隣人、友達、学校での人々との関わり、また仕事での社会的、集団的な義務と責任を果たします。つまり別の言い方をすれば、家族間での関わりや振る舞いが、人の人格や常識を形成し、もっと大きな単位での社会での他人との関わりの礎を築いているといえます。
 イスラームでは、社会の中で、様々な人々と良好な関係を持つこと、社会的な責任や義務をきちんと果たすこと、その中で不正や悪行を嫌い、善い行い、善い振る舞いをするべきとしています。今日の現代社会に問題視されている、周囲の人々に対する無関心や、自己中心さや不正に対するや見逃しや鈍感さなどを禁じ、周囲に対して気を配り、他人を優先し、誠実さや奉仕、恥の精神など社会においてムスリムが振る舞うべき正しさを詳細に示しています。
社会の核である家族は、人々が子孫を残す人類の存続という大きな役割を持っています。生まれてくる子供に対して、身体的、精神的、道徳的にもバランスのとれた大人へ育って欲しいと誰もが願うことでしょう。また誰もが健全な社会で生きたいを望むことでしょう。
イスラームにおいて、家庭は、様々な困難な状況から子供を守り、正しい道で生きることを示す最初の大切な場であり、両親は重要な役割を持つ教師と言えます。子供が身体的、精神的にも健康で、よい性格を作り社会で役に立つ存在となるかというのは、家庭から生まれるものであり、家族において、愛情や敬意、礼儀、寛容さなど大切にするよう考えられています。

父親の役割

 

父として自分の子供を扶養すること、子供に良い名前をつけ、教育を施し、自分の宗教を正しい形で導くこと、おいしい食事を与え、よい教育を受ける環境を作るのは父の義務です。また、子供たちに愛情と慈しみを持って接し、きちんとした躾(しつけ)をすること、精神的にも肉体的にもよく成長し、人や社会の役に立つ人間になるよう努めます。そのためには、自分自身がよいお手本となり、イスラームで禁止されてることを子供たちに守らせ、物事の善し悪しを教えていかねばなりません。
「親が子供にする贈り物で一番よいものは、良い躾(しつけ)である。」(ハディース)

 

 

母親の役割

 

イスラームにおいて、母の立場は特別に高いものとされています。預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安あれ)は、「天国は母の足元にある。」とおっしゃられています。自らの子供をお腹に宿している間も、その後子供が何歳になったとしても、あれこれと気遣い、常に自分よりも子供を優先に考え、あらゆる犠牲をも惜しまず育ててくれるのが母親なのです。ハディースでは次のように伝えられています。「ある男が預言者に『神に一番お慶び頂くにはどのようにしたらよいでしょうか。』と尋ねると、彼は答えた。『定めの時間の礼拝だ。』、男はさらに続けた。『それからどんなことでしょう。』すると、預言者は答えた。『父と母に物惜しみないことだ』」。このように、母は子供に大切に扱われる役割を持ち子供がいつまでも母への恩を忘れず、いつまでも大事すること思い出させてくれているのです。

 

 

子供の権利

 

両親に対し、子供たちの持つ権利があります。この権利を守るよう両親は出来るだけ努めなければなりません。子供たちの権利としは、よい名前を与えられること、よい食事、教育、礼儀を教えられること。愛情深く慈しみを持って扱われ、何歳になっても親の優しさをもらうこと。兄弟の間では公平であること。信仰に関する知識、クルアーンを教えられること。よい結婚をさせること、などがあります。
「生まれて来る者でこのフィトラ(本然の姿)でない者はいない。そしてその子はそれを自分の舌で表現するまでこの姿でとどまる」(ハディース)

 

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子供の立場、子供としての両親への役割

 

両親に対し、子供は、従順であること望まれています。聖クルアーンには、このようにあります。
『また両親に孝行しなさい。もし両親かまたそのどちらかが、あなたと一緒にいて老齢に達しても、かれらに「ちえっ」とか荒い言葉を使わず、親切な言葉で話しなさい。
24.そして敬愛の情を込め、両親に対し謙虚に翼を低く垂れ(優しくし)て、「主よ、幼少の頃、わたしを愛育してくれたように、2人の上に御慈悲を御授け下さい。」と(祈りを)言うがいい。』(聖クルアーン17章23.24節)

 また、両親の求めに応じること、両親に安らいだ環境を提供するように努力すること、禁止されていなければ、出来るだけ両親の望みを聞き、両親のために祈ること。尊敬し、傷つけるような行動や態度は慎むこと。両親が死後、彼らと親交のあった人々と関係を大切に保つことなどがあります。
 一方で、両親に反抗することは、大きな罪とされています。「アッラーのご満悦は母や父の喜びと、アッラーのお怒りは母と父の怒りに結びついているものです。」と預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安あれ)はおっしゃいました

 

 

 

両親へ奉仕する報酬

 

長い人生の中で子供を育て、様々は困難を乗り越えてきた両親に対し、私たちは尊敬し、大切に接しなければいけません。両親に反抗し、大切に扱わない人は、来世だけでなく、現世においても、いずれ自分も自分の子供に同じひどい扱いを受けることになるでしょう。預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安あれ)は「あなた方の父に対しよく接しなさい。あなた方の子供があなた方に対しよく接するように」とおっしゃっています。
 「われは両親に対して、孝行であるよう人間に命じた。」(聖クルアーン46章15節)
『「従順な息子が両親の世話を親切に見るならば、その世話をするたびに、アッラーは受け入れられる巡礼を一回したと評価されるだろう」人々は尋ねた。「もし彼が100回してもですか」「そうである。アッラーは偉大にして慈悲深き方である。」』(ハディース)
 両親を大切に扱い、孝行することは、アッラーがお喜びになられることです。イスラームにおいては、アッラーへの奉仕の次に両親に対する奉仕があるとされています。両親に対し、子供は、従順であること望まれています。聖クルアーンには、このようにあります。

 

 

 

子供をどのように教育するべきか

 

子供にとって最初の環境は家庭であり、学び舎です。よい躾(しつけ)、道徳、礼儀、信仰にかかわる教育など、全ての項目ではどんな家庭で、どんな両親に育つかということは子供の人格、将来へ大きく影響します。そのため、家庭内のやすらぎの中で、両親からの愛情や慈しみを持っていつまでも接しられる子供は、愛情深い子供に育つでしょう。礼儀や信仰面での教育も、まず親がそれについて実践しているかが大切です。自分がやらない、出来ないことを、素晴らしいからやるようにとどんなに子供に教えても、本当の理解を得ることは難しいでしょう。両親もまた、子供によい人間として育ってほしければ、自らも正しい人間として生きるよう努力するという意識を忘れないようにしたいものです。

イスラーム正統四法学派イマームの一人イマーム・ハナフィーが経験されたある出来事。

「当時一人の子供が蜂蜜アレルギーを持っていて、いくら食べないようにと言われてもその子供は食べ続けていた。その子供の親が子供をイマームのところに連れて行き、“この子はいくら止めるように言っても蜂蜜を食べ続けている”と悩みをイマームに打ち明ける。それを聞いたイマームが“今帰って、40日後にもう一度この子を私のところに連れて来なさい”と答えられる。40日が経ち、子供の父親が子供をもう一度イマームのところに連れて行く。そのときイマームは子供に“これから蜂蜜を食べないで”と言う。そうすると子供は父親に“これからは蜂蜜を食べない”と約束をする。これを見たイマームの弟子達は“どうして最初に言わないで、40日も待たせてから言ったのですか。”と尋ねるとイマームは次のように答える:“子供を最初に連れて来た日の朝私は蜂蜜を食べていた。自分が食べながら子供にそれを止めるように言っても恐らく効果がなかったはず。私は40日間蜂蜜を食べないで自分の身体から蜂蜜を除去してから止めるように言った。”」

 

 

 

子供が大切にされる社会

 

近年、日本では電車などの公共機関で、子連で乗車していても肩身の狭い思いをすることが多くあります。赤ちゃんや子供を抱っこしているお母さんがいても、席を譲らす無関心、子供がぐずって泣いたりする光景に周りの人々の反応は一貫して冷たいというのがよくある風景となってしまっています。
一方、イスラーム圏のよくある風景はどうでしょう。同じような状況であれば、まず、お年寄り、女性に席が優先的に譲られます。少年でさえも、親のしていることを真似て即座に席を譲っています。もし、子供がぐずって泣いていれば、どこからともなく知らないおばさんやおじさんがやってきて、ニコニコしながら子供をあやしてくれます。一見子供に興味のないような若者も、笑顔で子供に声をかけています。そこには、日本のような無関心さなどからくる冷たさはなく、社会の中に子供のしっかりとした地位が存在し、暖かいまなざしを持って尊重されているのを確かに感じます。預言者ムハンマド(彼の上に祝福と平安あれ)は、子供達をとても愛されていました。ある時アンサール(マディーナのムスリム)の女性が子供達を連れて彼のもとを訪ねた時、彼は「私の魂がその御手のうちにある神にかけて、あなた達(子供達)は私にとって一番いとおしいのだ」と3回繰り返しておっしゃいました。
 子供に愛情を持ち、慈しみを持って接することは、家庭だけでなく社会を形成する上でとても大切なことです。なぜなら、お互いに愛情をもったまなざしで見つめ、寛容な気持ちで接することができれば、そこに争いや罪などは起こりにくいからです。子供が大切にされる社会で生きる事は、他人との関係に慈しみと尊敬を、そこに生きる人々が成長の過程で養うことができるとても素晴らしい社会の構造ではないでしょうか。