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分娩と音楽

 

 

 

 

赤ちゃんはずっと泣いていました。母親が彼をその左胸に、ちょうど心臓のあたりで抱きしめた時、赤ちゃんは泣くのをやめ、落ち着きました。赤ちゃんが寝たと思った母親は彼をベッドへ連れていきました。そして赤ちゃんをそこに寝かすや否や、彼は再び泣き始めました。

 

母親のリズミカルな鼓動(こどう)は赤ちゃんの気分に影響を与える主因の一つであると研究者たちは報告しています。いくつかの実験がこの仮説に基づいて行なわれています。食べ物を求めて泣いている数人の赤ちゃんたちが、あらかじめ録音しておかれた鼓動の音と子守歌が流れている部屋へ連れて行かれます。そこで、泣き叫んでいた赤ちゃんたちが短時間のうちに落ち着き、眠ったことが観察されたのです。研究者たちは赤ちゃんが胎内(たいない)にいる間に母親の心音に慣れるのだという結論に達しました。赤ちゃんが生まれた後は、慣れ親しんだこの音は赤ちゃんを落ち着かせる一種の音楽になるのです。

 

母親の多くは無意識のうちに、母乳を与えたりなだめようとしたりする時に赤ちゃんを左腕に抱き、心臓の近くに抱き寄せます。この本能的な振舞いは研究者を、鼓動が赤ちゃんに与える影響へと集中させるものです。

 

ある著名な医学博士は、ささやかな事柄からインスピレーションを得ます。彼女は音楽療法が出産において有効であるという自らの仮説を実証しようと努めてきました。彼女は通常、水のせせらぎや風のざわめきのような自然の美しい音や神秘主義音楽の演奏に使われるネイ(葦(あし)笛(ぶえ))の音などを実験に用いています。対象者を二つのグループに分け、二つの部屋へそれぞれを入れます。片方の部屋では先述のような音を聞かせる用意が整えられています。そしてもう片方のグループは何も聞かされません。

一方で、一つの疑問が彼女に浮かびました「陣痛の前に赤ちゃんが子宮で眠ってしまったらどうだろう?」。そこで博士は、出産を間近に控えた人々の中から患者を選び、分娩の前に二時間ほど音楽を聞かせました。非常に快適な部屋でそれは行なわれ、その患者たちはほとんど全く、分娩(ぶんべん)の恐怖を感じずにいたのでした。

 

まず、実験対象とされているグループの患者たちは、音楽が好きかどうか、どのような音楽を聞くか、そしてその他彼女たちの性格に関するいくつかの点を尋ねられます。それから血圧の測定が行なわれます。血圧測定は実験の評価のために不可欠です。なぜならそれは、痛みの緩和や気分の高揚、分娩のストレスに対する音楽の影響を知る上で他の検査よりも正確な結果を出すものとなるのです。

 

博士は以前の実験で確認されていた、ネイ(葦笛)の音色に起因する、よい刺激となる筋収縮が観察されることを望んでいました。彼女の患者たちは陣痛の前に20分感覚で音楽を聞きました。それにより、陣痛時の痛みがより頻発になることが観察され、音楽が娩出期を短縮させることが示されたのです。

 

音楽療法は、患者が自分への自信を持つこととそれに続いて陣痛の苦しみを乗り越えることを助けます。観察の結果は、分娩の際に音楽を聞いた方のグループは他方のグループより緊張も軽く、神経の高ぶりも抑えられていたことを示しています。

 

音楽が分娩を容易にすることができるという仮定から、博士はその研究から音楽療法の有益な効果を報告しました。しかし彼女は、陣痛の最中に音楽療法を取り入れるだけでは不十分であることを強調しています。その最大限の効果を得るためには、少なくとも分娩の三ヶ月前には音楽療法を始めることが勧められているのです。

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